浮遊(海月、森崎) ページ3
汚れた金の換金、借金、発禁書物の売買。せっかく来た割にはショボい会合だ。
ここもダメだな。だったらこんな部屋は早く出たほうがいい。煙草と吸っちゃいけないモンが煙たいから。持っていたグラスをうさぎの格好をした給仕の女に手渡すと、愛想良い、しかし疲れが見える笑顔で会釈された。
強いて会合の良かった点をあげるとすれば、会場が海沿いの町ってことだ。夜風に当たれば気分も変わるだろう。アルコールに溺れる街を抜けて月明かりに導かれるまま、私は海へ歩いた。
角を曲がった途端、十数メートル先にいたその人の目があった。誰もいないと思っていた防波堤に人影が見える。
女はこちらの足音に気が付いていたようで、私が曲がるより先にこちらを振り返って明確に私を視認していた。先に見られていたので、心臓が跳ね上がるところだった。
「散歩ですか?」
長い髪の彼女は、唇を綺麗な弧にして微笑する。なんとなく違和感を覚えたが、その原因はわからなかった。
「まあ、そうかも。特に理由なんてない」
格式張った挨拶はさっきの会合で飽きるほどやったし、なにより面食らっていたため素に近い言葉を吐いてしまった。いつもならもっと、違ったのだが。
彼女は私の無愛想を気にしていない様子だった。
「ヴィランの海月さんだよね、私もヴィランだよ。森崎みどりです」
「なぜ私を知っているの?」
みどりさん言うには、先ほどの会合を主催した者と親交があるらしい。開催を手伝ったので集まった人々の顔は頭に入っているそうだ。場内で特にサポートできることも無くなったので海を見に来た、と彼女は話した。
長い緑の髪が紺色の空に溶けると、今度は月明かりに照らされてなびく。その笑顔、誰かの役に立ちたがる思想、上品な服装。
はじめに抱いた印象の理由がわかった。綺麗すぎるのだ。ヴィランであり、常に他人の足跡を聞いているような警戒心の高さを待ち合わせているのに、さも潔白な市民のような顔をしているから。
彼女は綺麗なフリをした悪、きっと私と同類なのだ。
「この会合が終わったらどうするの?」
「うーん……まだ手伝えることは沢山ありそうだから、もう少しここの人について行くよ」
「そのあとは?」
みどりさんは「ええと」と言って腕を組んだ。
「やることはまだまだいっぱいだから、他の助けを求めるヴィランを探そうかな。海月さんも頼ってね!できることはなんでもするから」
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作者名:バニー芳一 | 作成日時:2024年4月16日 19時