【WT】まっしろなせかい【短編集】 (ページ13)

今日:30 hit、昨日:63 hit、合計:20,608 hit

＊ページ13

.

その後、チョコが入ったままの手さげ袋と共にすごすごと自分の席に戻った私も確かに見た。なかむさん達と共にあの箱を見つけ、そして嬉しそうにはにかんでいたきんときくんを。

私はほっと息をついた。あぁ、置かなくてよかった、と。
安堵と共に胸の中を渦巻く黒い感情に見ないふりをして、私は目尻を拭う。

自惚れていた。きんときくんはいつも私に優しくて、私の狭いパーソナルスペースに入ることを、彼だけは許可していた。その優しさにつけ込んで、勝手に好きになって、それで…

ぐるり、と心が黒く染まる。

………帰ろう。忘れ物は……きんときくんに渡しそびれたチョコは、多少日持ちのするブラウニーだ。どうせ私が食べることになるし、少しくらい構わない。

私は音を立てないようにそっと立ち上がり、荷物を抱える。そして、ぼそぼそと壁越しに教室の奥から聞こえる二人の会話を聞かないように耳を手で塞いだ。

＊・＊・＊

家に帰った私は布団を頭まですっぽりと被ってふて寝していた。

放置してしまったブラウニーには申し訳ないことをしてしまったし、明日どんな顔をしてきんときくんに会えばいいか分からない。いやむしろ明日学校休もうかな…今のうちに体温計の温度を偽造しておけば信憑性増すよね…？？はぁ、そうする……そうしようかな…………

両親は共働きだからもう小一時間は帰ってこない。
私は布団の中から這い出でると、体温計を探しに１階に降りる。その時だった。

ぴんぽーん

『ぇ！？』

インターホンの音に肩が跳ねる。
宅配！？ど、どうしよ、寝間着だけど大丈夫かな？、なんて考えながら、でも居留守を使うわけにもいかないので、私はインターホン越しに声をかけた。

『は、はい…？』
「あ、すみません、Aさんと同じクラスのきんときと申しますが、」
『え、き、きんときくん！？』

機械音混じりでも聞き間違えるわけない。私は慌てて玄関のドアを開ける。ドアの向こうにいたのは間違いなくきんときくん、と、見たことのある、ブラウニーの入った紙袋…

「あ…Aちゃん、これ」

はにかみながらきんときくんは私に袋を渡してくれる。私は多分複雑そうな顔を浮かべて受け取った。

「机の横にかかってたから、余計なお世話だったらごめんね」
『え、っと、その、あ、ありがとう…』

袋の中には朝包んだ時と全く変わらないブルーのリボンが覗いていて、渡せなかったことをまた思い出して、私の心はいっそう落ち込んだ。

.