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きっともう此処には来ないだろうから、最後にもう一度だけ、この豪邸を眺めようと顔を上げた。二階建てだが横に長い。学校のような造りなのだなと思った。一階の右から左、そのまま視線を上に移して二階を左から右……と見ていって、最後に二階の右端、角部屋に視線を移した。すると、長くて黒い何かが見えた気がした。カーテンかと思ったが、違う。
髪だ。長い、水を浴びたカラスの羽のように真っ黒な髪。髪が揺れて、真っ白な肌が覗いた。真黒な夜空に輝く月が思い浮かんだ。
遠くではっきりとは見えなかったが、きっと女性だと思った。とても綺麗な人だと。
黒がまた揺れて、先程より月が大きく見えた。窓越しに見えた横顔に、ドキリと心臓が高鳴るのがわかった。想像通り、綺麗な顔だった。それが不意にこちらを向いた。
本物の美人は何処から見ても美人らしい。大きな黒い瞳と視線がかち合った瞬間、どくん、と心臓が大きく脈打った。
ばくばくと心臓が高鳴って、息をするのも難しい。ハッハッと犬みたいな呼吸の仕方になってしまう。目の前がチカチカする。その美しい人は、私と目を合わせて、ふっと微笑んだ。
その後どうやって家までたどり着いたのかわからない。ただ気がつけば私はぽかんと間抜けに口を開けたまま自宅の前に立っていた。勿論自転車もある。まだ心臓が痛い。もしや自分は狐か何かに騙されたのか、それとも白昼夢でも見ていたのか。思い切り自分の頬を抓ったが、痛かった。
色恋などどうでもいい筈だった。なのに、この心臓の痛みは、紛れもない恋だと、そう思った。一目惚れなんて本当にあるのか、と。
それからは初めての感情に頭も体もついていかず、どうにかあのお嬢さんとまた会いたいとそればかり考えていた。思ったが吉日、と以前の道を通っていった。帰り道を覚えていないから、たどり着けるか不安だったけれど。最初は異世界にでも迷い込んでしまったのではなどと思ったが、その時からは考えられないほどあっさり着いた。
彼女はやはり、二階の右端の部屋にいた。窓際で本でも読んでいるのか、少し顔を傾けて、すらりとした横顔だけが見えた。私は何をするでもなく、ただ彼女を眺めていた。やはり、痛いほどに心臓が跳ねる。彼女の顔を眺めているだけで、全身が粉々になりそうだ。やはり、きっと、これは恋なのだろう。
そうでなければ、一体何だと言うのか。
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あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな@さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな@さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか!?と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時:2024年4月6日 3時