＊ ページ16
その日はお嬢さんがこちらを見ていた。来てくれたのね、と微笑んでいるようにも見えた。やはり心臓はめちゃくちゃな音を立てていた。
その時、お嬢さんが手招きをして「おいで」と口を動かすのを見た。
行かなければ、と思った。操られているかのように屋敷の中へ。体が勝手に動いた。何故か門も、御屋敷の扉も開いていた。御屋敷のエントランスは、綺麗な外側からは想像がつかないほど荒れていた。豪華なシャンデリアは落ちたのか粉々に砕けて、暖炉もレンガが崩れて周りが灰まみれ。階段にもところどころ穴が空いて、壁紙もぼろぼろ、壁にかけられた肖像画も額縁が壊れたのかかろうじてガラスにひっかかっているだけだった。
明らかにおかしかった。今すぐに逃げ出したかった。でも足は勝手に進む。
二階の廊下もぼろぼろで蜘蛛の巣だらけだった。汚れた廊下を歩き、お嬢さんがいるであろう部屋の前に立った。開けてはいけない、進んではいけない。本能が必死に警鐘を鳴らすが、体は本能に逆らって動く。
ドアを開けた。
お嬢さんは微笑んでいた。
お嬢さんは手を広げた。まるで抱きしめてあげる、とでも言うように。
お嬢さんの腕は細かった。そして冷たかった。
私のお腹から下を、柔らかくて温かい何かがやたらやさしくくすぐる。
視線を移すと、それは。
お嬢さんの下半身は。
細かいうぶ毛の生えた、蜘蛛のそれだった。
その瞬間、私は察した。"彼女"は疑似餌だったのだと。アンコウが獲物を誘き寄せるように。魚を釣るため、魚に似た姿のルアーを付けるように。
その美しい容姿に釣られた獲物を、確実に手に入れるための＿＿＿＿＿
あの胸の異常なまでの高鳴りは、恋などではなく、きっと、本能的な恐怖だったのだと。
彼女は微笑んでいた。微笑んでいた。
彼女が口を開いた。彼女の顔が、キスでもされるのかと思うほど私に近づいて_____
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな＠さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (
レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな＠さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか！？と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時：2024年4月6日 3時
